2012年4月21日(土)よりTOHOシネマズシャンテ、新宿武蔵野館ほか全国順次
配給:ギャガ
Jack English ©2010 StudioCanal SA ©2011 Karla Films Ltd - Paradis Films sarl - Kinowelt Filmproduktion GmbH All Rights Reserved
冷戦真っ只中の時期に、実際にイギリスの諜報部員として活動していたという前歴を持つ作家ジョン・ル・カレ。
彼の代表作「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」を
『ぼくのエリ200歳の少女』のトーマス・アルフレッドソン監督が映画化。
(ル・カレは本作の製作総指揮も務めている)
サーカスとは、見世物のサーカスではなくて、英国諜報部のことを指す。
失態によりサーカスを辞した諜報部員ジョージ・スマイリーは、
レイコン次官より突如呼び出され、サーカスに潜むソ連の二重スパイ“もぐら”を突き止めるよう依頼される。
スマイリーは、サーカスのピーター・ギラムと共に調査を開始するが、捜査は混迷。
果たして、スマイリーはサーカスの裏切り者を突き止めることが出来るのか!?
スパイ映画だが「007」や「ミッション:インポッシブル」のような派手な銃撃戦や爆発といったアクションはなく、
盗聴、機密書類の窃盗、たれ込みなど、1970年代前半の情報戦を徹底したリアル指向で描きだす。
マスコミ用試写会の招待状の表面には、“必読”としてストーリーが書いてある。
これは滅多にないことだ。
さらに見る前にプレス(マスコミ用資料)を読んでおいた方がよいという話も耳にした。
多分、アカデミー賞脚色賞にもノミネートされたし、良い映画なんだろうけど、
『シリアナ』みたいなに、登場人物が多くて複雑な内容なのでしょう。
しかし、映画で描かれている時代の歴史的背景の予習は有りだが、
映画そのものに対しては、なるべく事前に知識を得ないで見たい派なので、
新たに情報を取得せずに見た。
まぁ、自分の映画鑑賞の読解力を試したいという思いも多分にあったのですが・・・。
そして、見始めてすぐに事前に予習した方がいいという点に納得させられた。
過剰な説明を排し、ワンシーンの中に、
それとなく意味のある情報源をインサートしておく。
最初に見た時はよく理解出来なくても、
後の展開の中で「あのシーンはそういうことだったのか」と繋がってくる。
あまり多くはないセリフも同様。
その時は意味がわからなくても、後から分かってくる。
そんな暗示がたくさんある。
無駄なシーンやセリフはないし、登場人物はみんな重要なので、
知覚、聴覚、記憶力をフル回転させながら、画面の隅々まで見る必要がある。
いつも以上に、情報を漏らさぬよう集中して見たので、
なんとか最後まで混乱することなく結末を迎えることが出来たが、
名前と顔の一致は、やはり一苦労だった。
劇中、ファーストネームで呼んだかと思ったら、ファミリーネームで呼ばれたりするので、
フルネームを覚えておく必要もある。
もっというと、彼等のコードネームもなんとなく把握しておいた方が良いかもしれない。
そんな感じなので、ある程度余裕を持って鑑賞したい人は、登場人物の名前と演じている俳優さん、
相互関係ぐらいは事前に押さえておいた方が、
「パーシーって誰だっけ?」ってならず、細かいシーンを楽しめるかもしれない。
いちいち名前を覚えるのは大変そうだが、
演じている俳優さんたちがインパクトのある風貌の方々ばかりなので、
それほど難しくはないはず。
本作で、アカデミー賞主演男優賞にノミネートされたゲイリー・オールドマンを筆頭に、
コリン・ファース、トム・ハーディ、ジョン・ハート、マーク・ストロングらが、
素晴らしい演技を披露している。
彼等の繊細な演技を見るだけでも価値がある。
同じくアカデミー賞にノミネートされたアルベルト・イグレシアスのスコアも印象的、
且つ見事に映画の世界観にマッチング。
1970年代の空気感もしっかりと表現している。
先述の通り、ドッカン!ボッカン!ドンバチ!はなく、
それはそれは静かに物語が進行するが、
これぞ映画!と思える、映画ならではの手法が至るところに散りばめられている。
以下、原作者ジョン・ル・カレの本作への賛辞。
この言葉が、この映画を的確に表現していると思う。
「本作は小説の映画化ではない。
私の目には、本作自体が芸術作品に映る。
私はこの原作をアルフレッドソン監督に提供したことを誇りに思っている。
しかし、彼がこの原作から作り上げたものは見事に彼自身の作品なのである。」
そう、『裏切りのサーカス』は、まさに映画なのだ。