『先生を流産させる会』
2012年5月26日よりユーロスペースほか全国にて順次公開
配給:SPOTTED PRODUCTIONS
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嫌悪感を覚えるような強烈なタイトルだが、その分興味もそそられる。
タイトル通り、女子中学生たちが身重の担任の女教師サワコを流産させるために会を結成して、
実行するという物語。
ミヅキをリーダーとする女の子たちが取る行動は、
理科室で盗んだ薬品を先生の給食に混入したりとかなり悪質。
悪戯のレベルを越えている。
何故、彼女たちは悪戯とは言えないような凶悪なことをするのか?
サワコの妊娠を知る以前から、ミヅキたちは反抗的だし、
世の中に不満を抱いているかのようだ。
しかしながら、サワコから何か酷い仕打ちをされた分けでもないだろう。
単なる復讐とかではない。
ミヅキの「サワコ、セックスしたのかな?キモくない?」というセリフがポイントになるんだが、
その理由は、多感な時期ゆえに・・・という感じで少々漠然としている。
そして、ミヅキは複雑な家庭に育ったようだが、詳しくは語られない。
だからこそミヅキが不気味な存在として際立ってくる。
そんなミヅキに対してサワコは、大人として、教師として、
女として、そして母親として毅然と立ち向かう。
しかし、ミヅキはまったく意に介さず、他のメンバーが離脱していく中、
その行動は益々エスカレートしていく。
何よりも恐ろしいのが、ミヅキに罪の意識がないこと。
サワコのお腹の中の子供に対して彼女が発するある一言には震えた。
そして、更に戦慄を覚えたが、この作品が2009年に愛知県で実際に起こった事件をモチーフにしていること。
映画では、男子から女子に設定は変えられてはいるが、似たような出来事が本当にあったなんて・・・。
本作を手掛けた内藤瑛亮監督は、この事件を基にして、
現代の家庭や学校の教育に孕む様々な問題を提示してみせる。
流産させる会のメンバーの母親がモンスターペアレンツとして描かれているが、
これはひとつのモデルケースでしかない。
ミヅキの家庭環境を明確にしないことで、
ミヅキのような子に育ってしまう様々な因果関係を見る者に喚起させる。
そして、もしも自分だったらミヅキの攻撃にどう対峙するべきか?
また彼女の疑問にどう答えたら良いのか?
そんな問いかけもしてくる。
煽動的なタイトルだが、極めて真面目な映画だ。
またテーマだけでなく演出もとても映画的。
ミヅキの性格を端的に表すと共に今後の展開にサスペンスを感じさせるオープニングは特に良い。
長回しも嫌味にならないし、少女たちの表情の捉え方もいい。
奇妙な音楽も良いアクセントになっている。
(出来ればサワコが生徒たちをビンタするシーンもガチでやって欲しかった・・・)
そして、ミヅキを演じた小林香織が秀逸だった。
個性的な顔立ちも手伝ってインパクト大。
ほとんど演技経験がないそうで、セリフがたどたどしいが、
それが反ってリアルだし、ミヅキの不気味さを助長させている。
で、設定を男子から女子に変えたことで、
いろんな点において“女”が浮き彫りになっていて、
本来娯楽である映画ならではの面白さが増しているような気がする。
あとはモンスターペアレンツな母親が最恐でした・・・。
上映時間62分と短いが、濃厚な一本。
でもやっぱり妊婦さんにはお薦めは出来ないかな・・・。
多分、女性と男性とでは見方が違うだろうし、
女性でも独身、既婚、出産経験有る無しで捉え方が変わってくるんじゃないかと思います。
【余談】
内藤瑛亮監督のフィルモグラフィーに『牛乳王子』という作品があった。
『スシ王子』なら知っているんだが、この映画は知らないなぁ〜、ってことで、
youtubeで検索してみたら予告編がアップされていた。
牛乳まみれのエログロホラー
うーん・・・すごいねぇ・・・