『苦役列車』
2012年7月14日より全国にて
配給:東映
(C)2012「苦役列車」製作委員会
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芥川賞を受賞した西村賢太の同名小説の映画化。
受賞したのが2011年1月なので、約1年で瞬く間に完成。
旬を逃すな!というところでしょうか?
なんでも製作陣は芥川賞の受賞式に乗り込んで、映画化権獲得を西村賢太に直訴したとのこと。
そんな映画屋の情熱が込められた本作の主人公は、北町貫多。
当然、モデルは原作者の西村賢太。
原作は読んでいないが、芥川賞の受賞に際して「久しぶりに風俗に行きたい」と答えるなど、
良くも悪くも常人にはない雰囲気を身にまとった人柄だなとは思っていたが、
映画で描かれる貫多のキャラクターは強烈だった。
19歳の貫多は、友達も、女もいない。
港湾労働で生計を立てるも、稼いだ金は酒とタバコと風俗に消えてしまう。
つまり金もない。
家賃も滞納。
住まいさえも危うい。
その日暮らしの生活は、性犯罪で捕まり、一家を崩壊させた父親のせいであり、
犯罪者の息子を蔑んだ世の中のせい。
自らに非はない。
そんな思いが、貫多の性格をゆがめ、屈折した人格を形成していく。
一方、唯一の心の拠り所である本を貪るように読む文学青年らしく、
貫多は、頭が切れるところがある。
ここぞというところでは、弁が立つのだ。
しかし、残念ながら彼の発言の節々には、
自嘲、へつらい、やっかみ、そして、時に相手への侮蔑が滲み出ている。
破天荒な物言いや行動、加えて怠惰な生活と、
貫多は、はっきり言ってどうしようもないダメ男だ。
でも、どこか憎めない。
それは貫多が、誰もが少なからず抱いているであろう世の中に対する鬱憤を、
ところ構わず吐き出しているからだと思う。
いわば、代弁者的な存在だ。
後先を考えず暴挙に出るその姿は、清々しくもある。
あと、寂しさから虚栄を張っている点もなんだか愛おしい。
貫多は、父親が逮捕されて以降、孤独だったが、
職場で新入りの専門学生の日下部正二と知り合い、
生まれて初めて友達と呼べるような関係を築く。
更に行きつけの古本屋で店番をしている女子大生の桜井康子とも、
正二の協力もあって友達になる。
しかし、貫多は、その2人の友達とも最終的にうまく付き合うことができない。
なぜなら、貫多には今まで友達などいなくて、
どうやって接したらいいのかわからないからだ。
その不器用さが、また、貫多を魅力的にしている。
とにかく貫多は突っ走る。
世の中の苦役を全て背負いながら、列車の如く走り続ける。
その突き抜けたところがたまらない。
主人公があらゆる排泄物を垂れ流しながら疾走する、
『ボーイズ・オン・ザ・ラン』とはまた違った汚らしさを撒き散らしながら疾走する。
そんな貫多を演じたのは、森山未來。
『モテキ』でもダメ男を演じていたため、
本作への出演を渋っていたそうだが、出て大正解でしょう。
実は森山未來だったから、この映画を見たくなったんだけど、
期待通り、貫多が発する様々な感情をものの見事に体現している。
狂気すら感じるその凄みは、筆舌に尽くしがたい。
森山未來は、役作りのために撮影期間中、都内の風呂無しの安宿に泊まり、
気付けば毎晩コップ酒を飲んでいたという。
役に対してかなりストイックだとは聞いていたが・・・。
ただただ、森山未來は凄い!!と思わざるおえない演技でした。
他には、正二と康子をそれぞれ高良健吾と前田敦子が演じている。
高良健吾は相変わらずカメレオンだ。
『蛇にピアス』のタトゥー&ピアスの男と同一人物とは思えないね。
地方から東京に上京してきたばかりの初心な頃から、
次第に世間慣れしていき、貫多を疎ましく思うようになる過程を巧く表現している。
前田敦子も良い。
初めて演技しているのをきちんと見たが、
今をときめくトップアイドルとは思えないほど、
華やかさを消し去り、映画のすえた世界観にすんなり入り込んでいた。
極寒の海にセーター脱いで飛び込んで行く度胸の良さも好感が持てた。
そして、それは監督の山下敦弘の力量もあると思う。
『リンダ リンダ リンダ』、『天然コケッコー』を見れば、
言わんとしていることが分かってもらえると思うんだけど、
役者、特に女優さんを映画の世界観に同調させるのが上手な監督だ。
貫多と康子が土砂降りの雨の中で見せる長回しとか、
やっぱりこの監督はスゲェなぁ〜と思わせるし、
貫多が康子に抱く下心とか、山下監督のスケベェ心が心地よい。
男の悲しき性の描写や海のシーン、一歩引いた客観的な撮り方とか、
今までの山下敦弘監督ならではの「らしさ」を前面に出しつつ、
そこに前作の『マイ・バック・ページ』で培った見やすい演出も加わり、
映画監督として更に磨きがかかった感がある。
あと、物語の時代は昭和なんだが、
昭和の雰囲気がしっかりと出ている。
平成も24年目となれば、昭和も大分遠い時代だ。
特に近年の近代化の波は激しく早い。
そんな中で、昭和を表現するのはとても大変だと思う。
昭和を感じさせる小道具や美術品にも注目だ。
個人的には、貫多が正二を映画に誘うんだが、
そのタイトルでにんまりしてしまった。
亡父にせがんで地元の劇場に連れて行ってもらって見た最後の映画なんだよねぇ。
そして、今日は父の誕生日だったりします。
そんな昭和の思い出が蘇る作品でもありました。