『トールマン』
2012年11月3日よりシアターN渋谷にて
配給:キングレコード
©2012 Cold Rock Productions Inc., Cold Rock Productions BC Inc., Forecast Pictures S.A.S., Radar Films S.A.S.U., Societe Nouvelle de Distribution, M6 All rights reserved
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2009年に日本で公開され、見る者の度肝を抜いた『マーターズ』のパスカル・ロジェ監督最新作。
6年前の鉱山閉鎖で急速に寂びれた炭鉱町コールド・ロックで、
次々と幼い子供たちが姿を消してゆく。
町の診療所で働く看護婦のジュリアは、
ある晩、自宅から最愛の子供を何者かに連れ去られてしまう。
傷だらけになりながら、必死の追跡するも叶わず、
町外れのダイナーに辿り着いたジュリアは、住民たちの不可解な行動を目にする・・・。
『マーターズ』がそうであってように、本作も予測不能な展開を狙っているんだが、
『マーターズ』がそうであったからこそ、予測不能な展開を予測してしまう。
深読みして、「もしかして、○×△だったりしてぇ〜」なんて思っていたら、
その通りの展開になっちゃって、かえって戸惑うみたいな・・・。
作風って難しいですね。
その作風でもう一点触れなくてはならいことがある。
それは残酷描写。
『マーターズ』の残酷描写は、ホラー映画に慣れている人でも目を見張るものがあったけど、
『トールマン』には、それほど強烈な描写がない。
よって、『マーターズ』のようなバイオレンスシーンを求めて本作を鑑賞すると、
完全に肩透かしを食らう。
小生も正直、バイオレンス描写を期待していた。
ロジェならあるはずだと。
『マーターズ』の存在によって、『トールマン』の物語は深読み出来るが、
作風は予測不能という、なんともマジカルな現象を引き起こしている。
言ってしまうと、それほど『マーターズ』が強烈だったということだ。
多分、ロジェはあえて残酷描写を封印したんだと思う。
これこそ、作家の思いと、ファン心理のずれの難しさの象徴だ。
特にホラーとメタルはこの傾向が顕著だ。
同じようなものを作りたくないと作り手は思う。
ファンも進化を求めるんだが、一方で普遍も求めるという矛盾した心理が働く。
例えば、メタルバンドのハロウィン。
ジャーマン・スピードメタルの最高峰だが、
1990年前半、ハロウィンのボーカリスト、マイケル・キスクは、メタルからの脱却を試みた。
「カメレオン」というアルバムがそれなんだが、
ファンから相当不評だった。
ハロウィンじゃないって。
そのくせ、同じようなアルバムを作ると、マンネリと言う。
作り手は、自分の要素を残しつつも、新たな作風にトライするという、
難易度が高いことをやらなくてはならない。
思うに、まずは監督は自分が評価を受けたジャンルをしばらく続けた方が良いじゃないかな?
ある程度、そのジャンルに特化することによって、定着させた後、
今までとはまるで違うテーマの作品を撮った方がスムーズだと思う。
そうすると意欲作、異色作といった前向きな表現で紹介してもらえるようになる。
メタリカはデビュー作から4作目の「アンド・ジャスティス・フォー・オール」までで、
スラッシュメタルを極めてから「メタリカ」でラウドに走った。
スピルバーグは、SF、ホラーといった娯楽作品を作った後、
『カラー・パープル』という人間ドラマを撮った。
イーストウッドだって最初は、アクションやウエスタン、ミステリーを撮ってから、
いわゆる人間ドラマ系の作品を手掛けるようなった。
こんな感じなので、ロジェはフランス残酷ホラーの旗手になるぐらいの意気込みで
極めた方が良かったんじゃないかな?
ある程度やりつくした後、新たなテーマに挑む。
そうすれば、ファンもすんなりと受け入れられるんじゃないかな?
えっ?ワシですか?
受け入れられなかった部類です・・・。
とはいえ、決して駄作ではない。
要するに先入観の問題なのだ。
で、一番の見所は、主演のジェシカ・ビールの熱演でしょう。
ロジェ曰く、『テキサス・チェーンソー』(03)を見て以来、
一緒にやりたいと思っていたらしく、ジェシカに脚本をダメ元で送ってみたら、
まさかの即答でOK。
過酷な撮影にも文句ひとつ言わなかったという。
さらにロケ地のカナダの天候が不安定で、
撮影が長期化し、バジェットオーバーになりそうになった時に、
ジェシカは、「自分のギャラを削ってくれ」と申し出たそうな。
江戸っ子だねぇ〜。