『ザ・レイド』
2012年10月27日よりシネマライズ、角川シネマ有楽町ほか全国にて
配給:角川映画
©MMXI P.T. Merantau Films
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2004年、タイから届いたトニー・ジャー主演のアクション映画『マッハ!』(04)。
そのガチなリアルファイトに興奮した。
あれから8年。
今度はインドネシアから、もっとスゲェーアクション映画が送り込まれてきた。
麻薬王を捕らえるため、アジトである30階建ての高層ビルに突入した20人のSWAT。
潜入を察知し、SWAT隊を迎え撃つギャング団。
この2組がビルの中で壮絶なバトルを繰り広げるという、
どこにでもありそうなプロットだが、バトルの濃度は凄まじく高い。
序盤は銃撃戦が主体で、中盤以降は生身のアクションとなる。
サム・ペキンパーやジョン・ウーを彷彿させるガンファイトもいいが、
やはり見所は、“シラット”というインドネシアの格闘術を駆使した生身のアクションだろう。
資料によると“シラット”は、メンタル・スピリチュアル、護身術、演武、競技の4つがあり、
素手・素足、そして時に短剣や棒などの武器を用いて、戦ったり、演舞したりする。
伝統武術である一方、軍隊式シラットもあり、
12月16日に船木誠勝と引退試合をするヴォルク・ハンが日本に伝えたコマンド・サンボと一緒で、
殺傷性が高く、欧米の軍隊でも取り入れられているという。
SWATの隊員ラマ役のイコ・ウワイスは、プロのシラット家。
適役マッド・ドッグを演じたヤヤン・ルヒアンもシラットに長け、
マーシャルアーツのインスタラクターとして活躍している。
麻薬王のボスの右腕であるアンディに扮しているドニ・アラムシャは、
シラット、空手、合気道、ムエタイ、ボクシング、レスリングなど、
あらゆる武術に覚えがあるという猛者だ。
イコ・ウワイス同様、SWATの一員シャカを演じたジョー・タスリムは、
柔道の達人で、多くの柔道選手権でメダルを獲得している。
他にもたくさんの武術家が参加しているんだろうけど、
特にこの4名のアクションが素晴らしい。
イコ・ウワイスもヤヤン・ルヒアンもジャッキー・チェンから影響を受けているという。
確かにそうなんだろけど、彼らが繰り出すアクションは、
ジャッキーが常にそうであったように、新しいアクションを追求しており、
オリジナリティのあるものになっている。
ラストの2対1のアクションとか、かなり斬新で、見ていて惚れ惚れしてしまった。
彼等の動きを追うカメラワークも良い。
多分、デジタルカメラで撮っていて、だからこそ出来るんだろうけど、
動き、アングルが計算し尽されている。
カット割りも、ゴチャゴチャしておらず、見せるところはしっかりみせ、
的確なところでカットを割り、テンポを出している。
戦っている人たちの立ち位置も明確。
102分の上映時間中、ほとんど戦っているのに、ワンパターンに陥らない。
ありとあらゆるアイディアを出して、
単調にならないように心がけたキャストとスタッフの努力の賜物でしょう。
アクションの演出に関しては、近年稀に見る出来だと思う。
アクション以外の部分では、
そこでシーンを切り替えちゃまずいでしょ!ってところがあったり(ジャカに迫る鉈男のシーン)、
時間的におかしなところがあったり(アンディのエレベーターのシーン)と、
「おやおや?」ってな演出があるっちゃあるんだが、
その辺は、既に製作が発表された続編で改善してもらえればと思います。
あとねぇー、悩ましいのが残酷描写。
銃弾が首を貫通して血が噴出したり、
銃を側頭部に押し付けて引き金を引いたり、
鉈が頬を切ったり、ナイフで胸を突き刺したり、
耳が削ぎ落ちたりと残酷描写がかなり多い。
この映画のテイスト的には、この路線でいいと思うんだが、
日本にはレイティングっちゅうもんがあるのですよ。
本作はR15+。
映倫のR15+の規定は、以下の通り。
「主題や題材の描写の刺激が強く、15歳未満の年少者には、
理解力や判断力の面で不向きな内容が含まれている。
従って、15歳以上の観客を対象とし、15歳未満は観覧禁止とする」
15歳未満はこの映画、劇場で見ることが出来ないのですよ。
アクション映画といえば、少年が一番みたがるジャンルだと思うんだが、
それを見ることが出来ないなんて・・・。
と、常々思ってしまうのですよ。
映画技術の進化で、あらゆる表現が可能となり、
これら暴力・残酷描写もよりリアルになってきた。
これは時代の流れだから致し方ないけど、
それが映画ファンの裾野を広げる妨げになっているのでは?
と思うようになって久しい今日この頃です・・・。
てことで、少年が見られないのであれば、オッサンが代わりに見るのだ。
かつてサム・ペキンパーのバイオレンスにしびれ、
ブルース・リーに燃え、ジャッキー・チェンのアクションに憧れ、
サモ・ハン・キンポーの重い蹴りに驚き、リー・リンチェイの美しい動きに惚れ、
ジョン・ウーにはまった30代、40代、50代の方々!
(自分も含めですが)この世代が一番映画館で映画見ていないらしんで、
たまに見るならこの一本!
今までのアクション映画に敬意を表し、踏襲しながらも、
見たこともないような新しいアクションを詰め込んだ力作です。
スライもシュワもブルースも出ていませんが、
往年のアクション映画で育った目の肥えた人たちも、
大いに驚き、満足できる作品だと思います。
知り合いのライターさんや本作の宣伝を担当している方に、
「伊藤さんは絶対に気に入りますよぉ〜」と言われていた。
わたしゃ、確かにアクション映画が大好きだけど、その分、うるさいんですよ。
なので、普通に「面白かったです」とかいっちゃうと、
「ほらね!言ったとおりだったでしょ!」となり、
それがなんか見透かされた感じがして癪なので、
どっかケチつけてやろうと思ったんだが、無理でした。
久しぶりに血が騒ぎましたよ。
■『ザ・レイド』
イコ・ウワイス、ヤヤン・ルヒアン、ギャレス・エヴァンス監督 オフィシャルインタビュー