『フライト』
2013年3月1日より丸の内ピカデリーほか全国にて
配給:パラマウント ピクチャーズ ジャパン
(C)2012 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
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マイアミ発アトランタ行きの飛行機にトラブルが発生。
絶望的な状況の中、ウィトカー機長が奇跡のような操縦を行い、
草原への緊急着陸を成功させ、多くの人命が救われた。
ウィトカー機長は一躍、時の人となるが、
彼の体内からアルコールが検出され、窮地に立たされてしまう。
ロバート・ゼメキスとデンゼル・ワシントン。
名匠と名優がタッグを組んだヒューマンドラマ。
ゼメキス監督は2000年の『ホワット・ライズ・ビニース』以来の実写映画。
2000年代は『ポーラ・エクスプレス』『ベオウルフ/呪われし勇者』といった
モーションキャプチャーを駆使した3DCGアニメーション作品を作ってきたが、
あんまり好みじゃなかったので、久しぶりの実写は素直に嬉しい。
しかも主演はデンゼル・ワシントンだ。重厚でリアルな内容が期待出来る。
そして、期待通り早々に見所のひとつである不時着シーンを持ってきて一気に引き込み、あとは人間ドラマをじっくりと見せていく。
ウィトカーは、重度のアルコール依存性だ。
酒に頼ってしまう原因は、父親の影響、仕事の重圧、己の技術へのプライドと畏れ、
事故後はその責任からの逃避、良心の呵責など単純ではない。
さらに巧みだなと思ったのが、
冒頭から不時着までの間に、ウィトカーの人柄を何気なく描写していること。
酒を抜きにしても元々複雑な性格の持ち主だったんだろうなということまでも想像できるし、
事故後の暴れっぷりも、この人なら・・・と思わせてしまう。
ウィトカーは、かなり酷い酩酊野郎で、暴れるし、感情のコントロールも怪しいし、
自己中だし、欺瞞に満ちた人格であり、到底好きになれるような人物ではない。
しかし、何故か魅力的で、感情移入してしまうのは、
デンゼル・ワシントンが、誰もが持ち得る人間の心の闇や苦しみ、
弱さを体現しているからでしょう。
いくつか印象に残っている演技があるんだけど、
それらのシーンで、デンゼルはあまり多くのセリフを発せず、
表情や身体で感情を表している。
この表現力は流石の一言。
特に目の動きがいい。
ドン・チードル、ジョン・グッドマン、ブルース・グリーンウッド、メリッサ・レオ等、
脇を固める実力派俳優たちも印象的だが、
本作はやはりデンゼル・ワシントンの独壇場と言えるでしょう。
しかし、役者がいくら良いからといって、
作品そのものが好きかというとそれはまた別の話だったりする。
ネタバレになるから書かないが、紆余曲折を経てウィトカーが辿り着く境地に対して、
頭では理解出来ても、心の底から共感することは出来なかった。
仕方ないとは言え、やはりそこに行き着くのね…。
あとラストのシーケンスが、ご都合主義的でやや鼻についた。
丁寧だし、作り手の誠実さが伝わってくるし、見応えもあるけど、
文化の違いに阻まれた感じ。
逆に言えば、同じ文化価値を持っている人は、ドンピシャなのかもしれません。