『シュガーマン 奇跡に愛された男』
2013年3月16日より角川シネマ有楽町ほかにて
配給:角川映画
©Canfield Pictures / The Documentary Company 2012
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1968年、ミシガン州デトロイト。
場末のバーで歌う一人の男が、大物プロデューサーの目にとまる。
彼の名はロドリゲス。
満を持してデビューアルバム「Cold Fact」を発表するが、商業的には大失敗。
続くセカンドアルバムも全く振るわず、
ロドリゲスは誰の記憶にも残らないまま、シーンから跡形もなく消え去った。
しかし、彼のアルバムは運命に導かれるように海を越え、遠く南アフリカの地に渡る。
反アパルトヘイトを掲げる若者たちが、ロドリゲスの曲に共鳴し、
ロドリゲスは革命のシンボルとなった。
その後も20年に渡って広い世代に支持され続け、
南アフリカではエルビス・プレスリーやボブ・ディランを超えるほど有名になっていた。
だが、ロドリゲスの「その後」を誰も知らない。
失意のうちにステージで自殺した、との都市伝説だけが残されているだけだった。
果たしてそのエピソードは本当なのか?
ロドリゲスに影響を受けた南アフリカのレコード店主が、
アルバムのCD化に際して書いたライナーノーツの記述によって、
一人のジャーナリストが真実を追究するため動き出し・・・。
本作は第85回米アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を受賞した。
かつてこの部門で、
ドキュメンタリー映画とは言えない偽記録映画『ザ・コーヴ』が受賞したことがあり、
アカデミー賞に懐疑的なところもある。
賞をとった映画が、必ずしも良い映画なわけではないということも知っている。
しかしながら、『シュガーマン 奇跡に愛された男』は、良い映画だった。
60年代後半から70年代のロックは、大好きだし、それほど疎いほうじゃないと思っていたんだが、
「シュガーマン」という歌を弾き語るロドリゲスなるシンガーの存在は、この映画で知った。
多分、多くの人たちが、同じだと思う。
そして、もしもロドリゲスのことを知らないのであれば、
知らないままこの映画を見た方が良い。
映画を見る前にロドリゲスを調べてはダメだ。
中盤から後半にかけての展開は、こんなことがあるんだと心底驚いた。
まさに「事実は小説よりも奇なり」だった。
鑑賞後に、なんともいえない幸福感に包まれるのもいい。
音楽の持つ力の凄さも改めて認識した。
ロドリゲスという人物、彼が紡ぎだす音楽、
その音楽に突き動かされた人々、
運命、縁、時代、歴史とあらゆる要素が重なり合って生まれる奇跡・・・。
すげぇ〜なぁ〜。
でもって、ロドリゲスがさぁ・・・って言いたいところなんだが、
ダメなんだよ。
本当にネタバレせずに本作の感動を語るのは難しい・・・。
百聞は一見にしかず。
見ればわかるさ!
それにしても、なんでロドリゲスは売れなかったのだろうか?
60年代後半から70年代初頭といえば、
キャロル・キング、ジェイムズ・テイラー、エルトン・ジョンといった人たちが台頭し、
いわゆるシンガーソングライタームーブメントが起こった時代だ。
ロックで世の中を変える!!!というカウンターカルチャームーブメントの崩壊によって、
外に向かっていた歌が、内に向かい、
シンガーソングライターたちは、恋愛、日常など身近なことを歌にした。
政治色の強い歌をうたっていたボブ・ディランやジョン・レノンも、
この頃から内向的な歌が多くなっている。
(まぁ、前から歌ってたけど、なんかカラーが違うのです。家庭に眼が向いている感じ)
ロドリゲスも、彼の日常生活を元に歌を作った。
しかし、キャロル・キングたちの歌とはちょっと異なる。
その歌詞にはどこか棘があり、ハードボイルでシニカルだ。
労働階級の匂いがプンプン漂う。
どちらかというと初期のブルース・スプリングスティーン(ボス)に近い。
ちょっとダークなところが時流に乗れなかった理由か?
でもボスは成功した。
レコード会社のプロモーションとか、ボスとは様々な違いがあったんだろうけど、
本当に音楽業界って水物だなと思うに至る。
と、なんだかオチがない文章になってしまったのですが、
オチが書けないのは、書くと映画の核心に触れざるおえないからなのです・・・。
「初めからなら書くな!」と誰かに指摘され前に、一人突っ込み。