『ライジング・ドラゴン』
2013年4月13日より全国にて
配給:角川映画
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12体からなる清王朝時代の秘宝を捜し求めて、
トレジャー・ハンター軍団が世界各国を縦横無尽に巡るうちに、
陰謀に巻き込まれていくジャッキー・チェン監督・主演のアクション・アドベンチャー。
ジャッキー監督作は、ベニー・チャンと共同監督を務めた1999年の『WHO AM I?』以来、
単身監督作としては、実に1991年の『プロジェクト・イーグル』以来となる。
ジャッキー自らが監督した過去の作品を見ると、
初監督作『クレージーモンキー/笑拳』('78)以降、
『ヤング・マスター/師弟出馬』('80)、『プロジェクトA』('84)、
『ポリス・ストーリー/香港国際警察』('85)、『サンダーアーム/龍兄虎弟』('86)、
『プロジェクトA2/史上最大の標的』('87)、『九龍の眼/クーロンズ・アイ』('88)、
『ミラクル/奇蹟』('89)と傑作、代表作が多い。
多分、ジャッキーが思い描く映画を好き勝手に作れるからなのでしょう。
そして、今回の『ライジング・ドラゴン』は、
ジャッキーが最後のアクション大作と公言している作品だ。
(俳優業を引退するわけではなく、あくまでも最後のアクション映画)
他人に任せず、全て自分の思い通りに作り、悔いなく有終の美を飾りたかったから、
久しぶりにメガフォンを取ったのでしょう。
さて、『ライジング・ドラゴン』は、あまり大きく謳われていないが、
『サンダーアーム/龍兄虎弟』、『プロジェクト・イーグル』に続く、
“アジアの鷹”シリーズ第3弾。
ジャッキーが、なぜ最後のアクション作品に“アジアの鷹”を選んだのかはわからないけど、
なんとなくその理由を察することはできる。
『サンダーアーム/龍兄虎弟』は、ジャッキーが大怪我をし、死亡説まで流れたいわくつきの作品だ。
『プロジェクト・イーグル』は、
ありとあらゆるジャッキー・アクションがぶち込まれた集大成的な作品であり、
ジャッキーは監督としてやり尽くしたと感じたのか、
以降、俳優業に重きを置いていくターニングポイントとなった作品。
スタントに失敗し、生死を分けた『サンダーアーム/龍兄虎弟』。
全てを出し切った感がある『プロジェクト・イーグル』。
多分、ジャッキーの中でも“アジアの鷹”シリーズは重要なんだと思う。
そして、『ライジング・ドラゴン』。
ジャッキー自身に思い入れがあるように、、
長いことジャッキー映画を見続けてきたファンにも思い入れがある。
個人的には、これぞジャッキー!!と感じた最後の作品は、
9年も前の『香港国際警察/NEW POLICE STORY』('04)。
この後の作品は、アクションが少なかったりでなんか物足りなかった。
もう年だし仕方ないかなぁ・・・という諦めの気持ちもあった。
ジャッキーは最後に一体、どんな凄いものを見せてくれるのか?という期待と、
「大丈夫かなぁ・・・」という不安を抱きながら、『ライジング・ドラゴン』を鑑賞。
冒頭、ローラブレード・スーツでのチェイスこそ、動きがカクカクしていて不自然だったが、
それ以外は、ジャッキーだからこそのアクションがてんこ盛りで、
不安は遥か彼方へ飛んでいってしまった。
パラグライダーを使ってのとぼけたアクション。
『プロジェクトA』『サンダーアーム/龍兄虎弟』を彷彿させる南の島でのコミカル・アクション。
“そこにあるもの”を利用したジャッキーらしいアクションが堪能できる、巨大アジトでの死闘。
(どこまでがスタントなのかわからないが)クライマックスの死のスカイダイビング。
要所に散りばめられたセルフオマージュのようなアクションの数々。
これだけジャッキー・アクションを満喫できて幸せな気分にならないわけがない。
特に巨大アジトでのアクション・シークエンスには、歓喜・感涙。
永遠に続いて欲しいと思ってしまった。
アクションだけでなく、その他の要素も、過去の、特に80年代のジャッキー映画を思い起こさせる。
まず、キャストが国際色豊か。
ジャッキーは80年代から、世界的な展開を視野に入れ、
自らアメリカを舞台にした『バトルクリーク・ブロー』('80)、『キャノンボール』('80)、
『プロテクター』('85)といった作品に出演するだけでなく、
自身の香港製作の作品に、アジア人以外のキャストを積極的に起用してきた。
『スパルタンX』、『サンダーアーム/龍兄虎弟』のスペイン人のローラ・フォルネル、
同じく『スパルタンX』、『サイクロンZ』のアメリカ人キックボクサー、ベニー・ユキーデなんかが該当する。
『ライジング・ドラゴン』では、ヒロインの一人がフランス人のローラ・ワイスベッカーだし、
巨大アジトで戦う敵役は、同様にフランス人のアラー・サフィだ。
『サウンド・オブ・サイレンス』、『フロスト×ニクソン』の名脇役オリヴァー・プラットの出演なんかは、
『プロテクター』のダニー・アイエロとかぶる。
さらに今回は、ジャッキーの次にビックネームである韓国人俳優クォン・サンウも出演している。
このように国際色豊かなキャスティングが可能になることも考慮して、
世界を股に駆けて活動する“アジアの鷹”を選んだんじゃないかな。
あと、本作にはローラ・ワイスベッカーだけでなく、
魅力的な女優さんが出演している。
メインのヒロインというべきヤオ・シントンは、ローラ・ワイスベッカーとバチる設定。
女同士のいがみ合いは、『ポリス・ストーリー/香港国際警察』での
ブリジット・リンとマギー・チャンのように、ジャッキー映画でけっこう見られる光景だ。
それからジャッキーの仲間役で格闘センス抜群のジャン・ランシンと、
敵側のケイトリン・デシェル。
この二人の戦いは、本当に素晴らしく、
足技の美しさは『サンダーアーム/龍兄虎弟』のアマゾネスさんたちを髣髴させる。
アクションが出来る出来ないに関わらず、女優陣にアクションをやらせる。
ジャッキー映画によくあることだ。
こんな感じで、『ライジング・ドラゴン』には、
“おぉ!ジャッキーぽいなぁ”と思わせるところがたくさんあった。
しかし、ジャッキーは過去に捕らわれて、ノスタルジーに浸るような人ではない。
最新テクノロジーをさりげなく取り入れているところもあり、
ジャッキーの映画に対するこだわりが垣間見られる。
そして、それは中国映画産業の進化の誇示を意味する。
中国(香港)映画の質の向上は、ジャッキーがずっと掲げてきた命題だ。
その象徴が「香港映画だからって舐められたくない」という思いで作った
ジャッキー自らがベスト作品に挙げている異色作『ミラクル/奇蹟』だ。
こういう“どうだ!!”という主張もジャッキーらしい。
主張といえば、このところプライベートでの政治的な発言で顰蹙を買っているが、
ジャッキーは昔から政治や国際問題に関心が強い。
『ライジング・ドラゴン』の物語には、
列強に侵略されてきた中国の歴史がさりげなく描かれている。
ナショナリズム的なテイストは、ジャッキー自身の志向や『1911』の流れを汲んでいるわけで、
ジャッキーの映画作家としての(良いか、悪いかは別として)成長が伺える。
ということで、アクションに限らずジャッキー要素満載で大満足だったんだけど、
ジャッキーの映画を見て、初めての感情が湧き出た作品でもあった。
その感情とは、切なさだ。
既に情報が露出しているので書いちゃうけど、
エンドロールでジャッキーが、アクション映画からの引退を明言している。
“最後、最後っていっても、宣伝側が勝手に煽りでつけたんじゃないの?”
っていう疑惑の念を木っ端微塵に打ち砕いてくれた。
あぁ・・・本当なんだ・・・。
これで最後なんだ・・・。
帰りの電車の中で、マスコミ用の資料を読んだ。
そこには記名がなく誰が書いたのか判らないが、コラムが掲載されていた。
70年代、80年代、ジャッキー映画に触れ、大量の<ジャッキー新入生>を生み出した。
90年代、ハリウッドに進出し、全世界で世代を超えた<ジャッキー新入生>が誕生した。
その反面、かつて最も熱くジャッキーを支持していた日本のファンは、
30年という歳月とともに、大人になり、ジャッキー映画を見なくなった。
<ジャッキー卒業生>・・・。
そんなような文面。
自分は、1985年に『五福星』で入学した。
確かに当時、一緒にジャッキー映画を見ていた友達は、
次第にジャッキー映画から離れていった。
しかし、自分は未だに卒業した覚えはない。
まだ、在学生だ。
でも、もうジャッキー映画という学校は、学校側の都合でなくなってしまうのだ。
つまり廃校。
しかも過疎化ではなく、老朽化で。
2000年頃から、いつかはこの日を迎えることは覚悟していたけど、
実際に訪れると・・・。
ガキの頃、ジャッキーに出会った時、
まさかこういう思いを30年後に味わうとは思ってもみないわけですよ。
エンドロールの間、そして、見終わった後、
今までのジャッキー映画のシーンや、
子供の頃に見たシチュエーションが走馬灯のように頭を駆け巡った。
吉祥寺東映(現在の吉祥寺プラザ)で『チャンピオン鷹』と同時上映で見た『五福星』。
あの時の衝撃は、30年経った今でも忘れられない。
なぜか新宿ではなく池袋の映画館で見た『ポリス・ストーリー/香港国際警察』。
この時、つなぎの服を着てピストルを構えるジャッキーの下敷きを買った。
仙台の親戚の家で、炬燵に入りながら見た『成龍拳』や『拳精』。
ジャッキー仲間だった同級生の小林三津生君の家で大爆笑しながら見た『スパルタンX』。
その小林君と一緒に新宿東映パラスで見た『プロテクター』や『醒拳』。
イイノホールの試写会で、友達や母親と一緒に見た『サンダーアーム/龍兄虎弟』。
家のテレビでオヤジと一緒に見た『プロジェクトA』。
『プロジェクトA2/史上最大の標的』は、
(確か)三宅裕司の日テレの番組でおすぎさんが大絶賛してたっけ。
その大絶賛どおりの大傑作だった。
ヤマハホールの試写会で見たんだよね。
そんなガキの頃の思い出が、映画のシーンと共にドバドバドバっとフラッシュバックしてきた。
小学生の時に、たまたま父と知り合いだった東宝東和のジャッキー担当、故・飯田格さんと出会い、
映画に携わる仕事をしようと心に決めた。
飯田格さんの息子とは、一生付き合える友達になった。
ジャッキーに初めてインタビューできたときに、
飯田格さんの息子さんが、たまたまカメラクルーで参加していたのも何かの縁でしょう。
「『ドラゴン・キングダム』ジャッキー・チェン取材記」参照
ジャッキー無くして自分の人生は語れない。
同じように多くのジャッキー映画の在校生や卒業生が、
それぞれジャッキーに対していろんな思いを胸に秘めているはず。
在校生はもちろん、遥か昔に旅立った卒業生たちにも、
是非『ライジング・ドラゴン』を見ていただきたい。
『ライジング・ドラゴン』を見れば、
過去の記憶が甦り、様々な感情が去来するはずです。
最後に、もうこういう機会もあまりないと思うので、
年代ごとにジャッキー映画のマイ・ベストを記しておこうと思います。
【70年代】
『ドランク・モンキー/酔拳』('78)
2年ぐらい前に久しぶりに見直したんだけど(吹替え版で)、
“今見ても”ではなくて、“今だから”こその凄さを感じた。
【80年代】
『ポリス・ストーリー/香港国際警察』
恐らく最も繰り返し見たジャッキー映画。
ラストのポール飛び付き落下スタントは、今見ても戦慄を覚える。
飛びつく前のジャッキーの「ハッ!!!」という掛け声は、演技じゃない。
詳しくは、『ジャッキー・チェン マイ・スタント』を見てください!
泣けます!
【90年代】
『WHO AM I?』
『プロジェクト・イーグル』以降、あんまりパッとしなかったジャッキーが、
凄まじいアクションとスタントで度肝を抜くキチガイ級の映画。
屋上でのなが〜い格闘とその後のデススタントは、必見。
【00年代】
『香港国際警察/NEW POLICE STORY』
練られたストーリーとジャッキーならではのアクションが満載。
「やれば出来るじゃないか!!!」と超感動した一本。
【10年代】
『ライジング・ドラゴン』
『ライジング・ドラゴン』以外だと、『ベスト・キッド』('10)かな。
『ドランク・モンキー/酔拳』の立場逆転が、時代の流れを感じる。
ジャッキー、本当にたくさんの感動と喜びと思い出をありがとうございました!!
って、感慨に耽っていたら、次回作は『ラッシュアワー4』という噂が・・・。
そもそも「ラッシュアワー」シリーズは好きじゃないので、作らんで欲しい・・・。