千束～旧山谷～隅田川駅跡～千住駅跡 (伊藤Pのブログ)

前から行きたかった小塚原刑場跡や、
大好きな富士塚がある石浜神社などを巡った「小塚原回向院～石浜神社～北千住」。

それなりに充実した散策だったけど、
「あしたのジョー」の舞台となった玉姫公園や、
近辺の鉄道遺構に立ち寄らないというチョンボをしでかしてしまった。

悔しい。

ということで、翌日、辰巳での用事の合間を利用してリベンジ散策へ！

しかし、同じ道のりだとつまらない。

他にルートはないかと確認してみたら、
「あしたのジョー」の舞台のお隣が千束ではないか。

千束といえば、かつては新吉原遊郭。

後北条家の浪人・庄司甚右衛門が、江戸幕府の許可を得て、
元和3年(1617年)に日本橋葦屋町(あしやちょう)に作った大規模な女郎屋が吉原遊郭。

葦は葭(よし)とも呼ばれるイネ科の多年草で、
沼地であった日本橋葦屋界隈にお生い茂っていた。

そこを埋め立てて遊郭を建てたので葭原となり、
後に吉原と呼ばれるようになった。

そんな吉原遊郭は、明暦3年（1657）の大火で焼失。
幕府の命により、今の千束の地に移設することになる。

日本橋同様、湿地帯で点在していた池を埋め立てて、
新吉原遊郭が建てられた。

以降、売春防止法が完全施行された昭和33年(1958年)までの300年間、
吉原は国公認の風俗街として栄え、
「付き馬」など、多くの落語の題材にもなっている。

千束に吉原の面影は残ってやしないか？

そんな思いから、
南千住駅の２つ手前の入谷駅で下車。

国道４号線を少し北上して右折、金美館通りなる商店街を歩く。

金美館という名称が気になり調べたところ、
かつて入谷にあった映画館の名前だった。

大正末期創業で、入谷以外にも20ぐらいチェーンの映画館があり、
しかもクラブチッタ川崎で知られるチッタエンタテイメントの前身！

映画が好きだったし、映画の仕事をしていたのにも関わらず、
全く金美館のことを知らなかった。

通りの名前になるぐらいだから、かなり栄えた映画館であり、
商店街も活気があったのでしょう。

しかし、栄華の後の零落か、
現在はほとんど人通りがなく閑散としている。

国際通りを渡り、ひとつめの信号を左折すると吉原弁財天。

上の写真は、大震火災殃死者(おうししゃ)追悼紀念碑。

大正12年(1923年)の関東大震災で、
多くの人が吉原造成の際に残った池(花園池・弁天池)に逃れた。

しかし、490人の人々が溺死してしまった。
その御霊を鎮めるための供養塔で大正15年(1926年)に造立されたもの。

溺死するということは、結構、広くて深い池がたくさんあったのだろうか？

奥には弁財天があり、弁天様が鎮座していた。

弁財天は水の神で、芸能の神でもある。

吉原の周りには池があり、
遊女たちは、客を楽しませるために諸芸を磨いた。

そんな経緯から弁財天が祀られるようになったのでしょう。

この弁天様は、浅草寺の大黒天等で形成される浅草七福神のひとつ。

境内には「吉原講」と彫られた門柱のようなものが、
無造作に置かれていた。

吉原講で検索しても、あまりヒットしないが、
恐らく富士講同様、何人かで集まって融資をして、
吉原に遊びに行く組織のことなのでしょう。

で、この弁財天ですが、昭和10年(1935年)に
吉原神社に合祀されたため、正確には神社ではありません。

その吉原神社は、吉原弁財天から徒歩数秒の所にある。

地主神である玄徳稲荷社を合祀して明治5年(1872年)に創建。
吉原遊郭の鎮守の社。

吉原神社から中之町通りを進むと、
ソープランド街へと突入する。

これぞ新吉原の名残り？

人通りがほとんどないのにも関わらず、
各店の前には客引きの男性が立っている。

当然の如く、入店を勧めてくる。

そして、店によっては黒塗りの車が横付けされて、
車の中からいかにもの方々が、店内に吸い込まれていく。

日曜日のお昼時だぞ。

小生の地元の吉祥寺にも風俗街があるけど、
それとは明らかに異質な、
馳星周小説に出てくるような暗黒街的な臭いが漂ってくる。

足早に中之町通りを突き抜け、
吉原大門の交差点へ。

かつてここに吉原の大門が建っていたと思うと、
感慨深いものがある。

大好きな落語の噺「明烏」の中で、
吉原大門は重要な役割を果たしている。

散策時、その存在に気が付かず、
きちんと写真を撮らなかったんだけど、
ガソリンスタンドの前に少しだけ写っている木は、
「明烏」で御神木として登場する見返り柳。

実存していることに驚いた。

遊び帰りの客が後ろ髪を引かれる思いを抱きつつ、
この柳の辺りで遊郭を振り返ったのが、その名の由来。

現在の見返り柳が、何代目かは不明で、
元々は違う場所のあったらしい。

吉原大門の近くには、いせやという店があり、
行列を作っていた。
(正式店名：土手の伊勢屋)

入谷駅から散々閑散とした道のりを歩んできた者としては、
逆にこの行列に違和感を感じてしまった。

いせやといえば、吉祥寺住民としてはやきとりだが、
土手の伊勢屋は天丼が有名。

創業120年以上で、吉原のお客も訪れたという。
風情のある建物は、昭和2年に建てられたもので、
国の有形文化財に認定されている。

老舗の天ぷら…。
1時ちょっと前なので、ここで昼飯と一瞬思ったが、
並ぶ時間がもったいないし高そうなので、スルーした。

そして、土手の伊勢谷からすぐ、矢吹ジョーがお出迎え。

えっ～、全く似ていません…。

で、この残念なジョーの像は、
いろは会ショップメイトという商店街の入口に鎮座しているのですが、
この商店街が、超衝撃でした。

上の写真を見てもらえれば、お分かりかと思いますが、
アーケードを歩いている人は、数えるほど。

平日ならまだしも、日曜日の真昼間なのに…。

オープンしている店が数店舗あるものの、
ほとんどの店は、シャッターを下ろしていた。

過疎化が進んだ地方商店街ならば、まだ理解できるけど、
ここは東京都23区内。

いろは会は、大正8年頃に商店会が出来たのが始まり。

関東大震災、東京大空襲で被災するも復興。
昭和51年(1976年)にアーケードとなった。

一応、公式サイトが存在していたが、
寂びれた感を必死に隠そうと頑張っているものの、
中途半端な情報量と更新頻度で、かえって痛ましい。

訪問日から1週間後の3月14日(土)に、
「あしたのジョー祭り 2015」が開催されたようだが、
この文章を書いている5月8日時点で開催告知のまま更新していない。

レポートできないぐらいのお祭りだったの!？

誰か記事にしていないかと検索してみたら、
なんといろは会のfacebookが存在していた。

facebookにジャンボいろはカルタ大会の様子が、
4月2日に写真付きでアップされていたが、
とても盛り上がった風には見えない。

笑顔でジャンボカルタを掲げる子供の写真が切ない。

切ないといえば、公式サイトのいろは会の歴史に一文を読むと、
ますます切なさが増す。

同年(昭和51年)11月にはカラー舗装も完成し〝華麗な商店街”の誕生は
当時「いろは会」の名を区の内外に強くアピールしました。

かつては、“華麗な商店街”だった・・・。
見る影もない。

試しに「いろは会」で画像検索してみたが、
かつての賑わいを伝える写真は、皆無に等しかった。

いつからシャッター街になったのかはわからいけど、
店の看板や無造作に置かれた遊具を見るに、
かなり前から廃れてしまったのは間違いなさそう。

流石に撮影しなかったが、シャッターを下ろした店の前で、
段ボールを敷布団にして、布団を掛けて普通に寝ている男性がいた。

道端には、寝床の縄張りをアピールしているのか、夜具も放置されていた。

夜になれば、段ボールを抱えた人が、この寝床にやってくるのでしょう。

2011年の実写版映画『あしたのジョー』の公開を機に、
いろは会は前年の2010年から「あしたのジョー」を使った街おこしをスタートさせているが、
あまり効果はなかったようだ。

そんな全長約370mの商店街を抜けると、
反対側入口には、昼間から酒盛りをしている一団が。

写真の右側にある横断幕には、
「山谷は日雇労働者の街。労働者を排除する再開発反対!!」と掲げられている。

この地域は、街道に近いため江戸時代から安宿があった。
その名残から簡易宿泊所が多く、日雇労働者が集まり、
所謂、“ドヤ街”を形成した。

ドヤ街のドヤは、ヤドの逆さ言葉。

住居表示制度実施前の1966年までは、山谷(さんや)という地名で、
大阪のあいりん地区、横浜の寿町と並び、
三大ドヤ街のひとつとして数えられていた。

東京都道464号言問橋南千住線(吉野通り)を渡ると、
ドヤ街色がさらに強まる。

前日に訪れた泪橋交差点のすぐ近くだが、
ワンカップや缶ビールを手に持っち、
大分酩酊気味のおじさんたちがチラホラと見受けられ、
前の日とは大分違う印象を受けた。

中には完全に酔っぱらっていて、喚き散らしている方も。
ちょっと身の危険を感じた。

速やかに立ち去りたい気分になったが、
「あしたのジョー」の重要舞台である玉姫公園を見ないわけにはいかない。

くすんだジャンバーを身にまとい、
痛風なのか足を引きずっているオジさんたち数名と擦れ違った後、
玉姫公園に辿り着いたんだけど…

すべり台の脇のビニールシートの重石は炊飯器だ。
何でもかんでも拾えるものは、拾ってきた感じ。

確かに「あしたのジョー」の舞台は、山谷のドヤ街だった。
しかし、時代は半世紀近く前の昭和40年代初頭。

恐らく、50年前はこの地域がドヤ街であり、
統一感といか、全体的に馴染んでいたに違いない。

でも今は違う。

玉姫公園には運動場が隣接していて、
この日も少年野球チームが練習をしていた。

近くには綺麗な老人ホームの建物もあった。

街全体がドヤ街かというと、決してそうではない。

にも関わらず、未だにドヤ街の臭いを強烈に放っている。
先のいろは会の商店街も含め、かなりの衝撃でした。

玉姫公園のお隣には、玉姫稲荷神社。

この神社は、近隣の靴関連業者が、
商売繁盛と地場産業の発展を目的として行う「こんこん靴市」が開催され、
毎年多くの人出があることで知られている。

「こんこん靴市」で画像検索すると、その賑わいを伝える写真が多数あがっている。
いろは会のジャンボいろはカルタ大会よりは、集客力があるようだ。

どうせ街興しをするのならば、同日に開催すれば？と思ってしまった。

この後、明治通りに出て、昨日と同じ道で白鬚橋へ向かう。

明治通りが、丁度、今までいた台東区と荒川区の区界なんだけど、
荒川区に入るとドヤ街にあった独特の雰囲気がかなり和らぐのが不思議。

昨日は石浜神社の富士塚に興味が行っていて気付かなかったが、
白鬚橋の脇に石碑を発見。

かつてこの界隈の隅田川畔は風光明媚で、多くの屋敷が軒を連ねていた。

明治時代の政治家・三条実美(さんじょうさねとみ)の別邸・対鷗荘もその一つで、
明治6年(1873年)、心労で病に倒れた実美が、対鷗荘で静養していたところ、
明治天皇が病床の実美を見舞ったことを記した碑。

対鷗荘は、昭和3年(1928年)、白髭橋加工工事に伴い、
多摩市連光寺にある多摩聖蹟記念館に移築されている。

多摩市のサイトに載っている対鷗荘の写真を見るに、
随分とモダンな造り。

白鬚橋から隅田川の土手を歩き、橋のたもとに。

この橋の下をくぐると、
貨物駅である隅田川駅の遺構、汐入水門跡だ。

隅田川駅に運ばれた貨物は、現在全てトラックで輸送されているが、
昭和30年代までは水運がメインとなっていた。

コンテナホームは船渠(せんきょ：ドッグ)となっていて、
隅田川から運河が引かれ、荷役が行われていた。

この汐入水門は、運河の水位を調節し、
駅構内と周辺地域を水害から守るために昭和28年(1953年)に建てられたが、
運送方式の変化によって昭和36年(1961年)から船渠の埋め立てが始まり、
その役目を終えている。

実働期間はたったの8年と短い。

上の写真は、整備された瑞光公園の階段上からの一枚。

草木の向こう側に見える運河の一部も隅田川駅の遺構。

ここから隅田川駅は近いので、せっかくなので行ってみることに。

船渠の埋立後、隅田川駅の線路やコンテナ置場の一部となっていた場所には、
真新しい高層マンションが立ち並んでいた。

昭和60年代ぐらいから再開発が進んだらしい。

先の汐入水門のあった瑞光公園では、子供たちが遊んでいた。

つい先までドヤ街にいたことが嘘のようである。

この表現が正しいのかわからないけど、
格差社会を目の当たりにした気分。

そんな気分を抱きながら進むと隅田川駅。

昨日、歩道橋から見た位置から丁度反対側だ。

明治30年(1897年)4月1日、日本鉄道の隅田川貨物取扱所として開設、
明治34年(1901年）に隅田川駅と改称された。

22.4ヘクタールの敷地面積を誇る貨物駅といわれても、
規模感がイマイチ掴めないが、とにかくデカイ。

この後、汐入の小奇麗なマンション群を抜け、
前日同様、千住汐入大橋を渡り、墨田区へ突入。

お次の目当ても鉄道遺構。
東武千住線千住貨物駅跡。

京成関屋駅から近いということ以外、正確な場所の情報を知らず、
見つけられるか心配だったが、案の定、なかなか見つけることができなかった。

京成本線の高架下を彷徨い、京成関屋駅へ到達。

なんとなくこっちの方かなという感を頼りに、
隅堤通り沿いに歩いて行くとあった！

千住貨物駅跡といっても、その名残はこの地面に埋まった線路のみ。

大正13年(1924年)、東武伊勢崎線の牛田～北千住間に千住駅が設けられ、
昭和5年(1930年)に中千住駅と改称。

昭和28年(1953年)に駅としての役割を終えたが、
昭和10年(1935年)中千住駅から隅田川へと延びる貨物支線600ｍが敷設され、
さらに隅田川沿いに貨物専用の千住駅が設けられ、
昭和60年(1987年)まで営業していた。

この線路はその貨物支線の遺構。

で、このゲートの向こう側が気になるわけですが、
京成本線の高架を潜って側道へ進み、
トタンのバリケード越しに撮った一枚。

左奥にある茶色の物体は廃車両か？

側道の奥へと進むと、萌えるバラック。

反対側は、近代的なマンション。
対照的だ。

隅田川沿いまで足を運び工場敷地内を覗く。

産廃処理工場？

稼働しているのかどうかわかりませんが、
若干異臭を放っておりました。

千住貨物駅は昭和60年まで操業していたので、
この産廃処理工場は、その後に出来た施設のはずだが、
大分、キテいる。

まぁ、それでも約30年の歳月が流れているのか…。

この後、北千住駅を目指して歩を進めると、「牛骨らぁ麺マタドール」。

昨日行列を成していたが、今日はない。

ということで入店し、
看板メニューだという“贅沢焼牛らぁ麵しょうゆ”を選択。

一杯1050円とラーメンとしてはだいぶお高めだが、
滅多に来られる店ではないので奮発した。

注文してからラーメンを待っていると、
カウンターの上にヒバーチを発見。

沖縄石垣島産の香辛料で、
現地の食堂や沖縄そば屋には大体置いてあり、
こしょうの代わりに肉料理やソバへ振り掛ける。

ピィヤーシ、ビバーチなどとも呼ばれているもので、
小生も昨年、石垣島にてピィヤーシを購入しやしたぁ。

そして、待つこと数分で贅沢焼牛らぁ麵しょうゆ登場。

まずスープですが、これは美味い。

麺もいい感じ。

が、上に乗っているローストビーフは、微妙かなぁ。

高校・大学と高級スーパーの精肉部でバイトした身としては、
肉には若干うるさいのであります。

とはいえ、トータル美味しい部類のラーメンでしたが、
味よりも店員さんの暗さの方が気になりました。

この後、北千住駅へ向かい日比谷線、京葉線で辰巳へ帰還。

いやー、今回の散策は濃厚だった。

新吉原遊郭～千束では、江戸から現代にかけての風俗の流れに触れ、
隅田川駅と千住駅の鉄道遺構からは、昭和の匂いを嗅いだ。

そして、いろは会商店街～玉姫公園…。

マンション群が建ち並び、
整備が行き届いた隅田川駅跡の再開発地との空気感の違いを肌で感じた。

徒歩たった数分の距離にも関わらず、
こうも違うものか？

２カ月以上経った今でも、その衝撃は薄れていない。

この日、地元の吉祥寺にある商店街サンロードを通ったが、
いろは会商店街も、かつてこのように賑わっていたのだろうか…。