たまには本の紹介をしましょう。
2015年12月2日に発売された恒川光太郎「ヘブンメイカー スタープレイヤーII」。
昨年の秋に紹介した「スタープレイヤー」の続編。
異世界・フルムメアで「10の願い」が叶うスターボードを手に入れ、
戸惑いながらも成長していく前作の主人公・斉藤夕月。
続編ということで、夕月の冒険の後日譚かと思いきや、
恒川光太郎のブログ「コウタライン」には以下の記述が。
同一世界観の作品であるため、スタープレイヤー2とつけましたが、
前作を読んでいなくても、9割方問題ないかんじです。
今回の主人公は男なのですが、
なかなかの問題児。
そうきたか…。
単なる続編ではないことを知ったうえで「ヘブンメイカー」を読み始めた。
バイクで事故死した高校二年生の鐘松孝平。
一度死んだ人たちが、何もわからないまま集められた死者の町で、
秩序ある新しい社会を作りあげようとする「ヘブン」のパート。
思いを寄せていた女性の死から立ち直れない佐伯逸輝。
斉藤夕月と同じように籤を引いてスタープレイヤーとなり、
異世界で世界を変革していく「サージイッキクロニクル」のパート。
なぜ孝平たちは生き返ったのか?なぜ死者の町に集められたのか?
逸輝はスターを使ってどのような願いを叶えていくのか?
最初は関連のないように見える2人の冒険が次第に交錯しながら、
予測不能な物語へと読み手を誘う。
細かい伏線の張り方、整合性の取れた構成力、
言葉の選び方、どんでん返し、
前作との結び付け方などなど、流石でした。
2つのパートが徐々にひとつの線になっていく物語の中盤以降が、
読者が最もワクワクするであろう本作の核で、
小生も楽しく読んだのですが、読了後もっとも印象に残ったのは、
15Pからの「サージイッキクロニクルI」の章。
(何気ない最初の2行が超重要)
ここで佐伯逸輝の中学時代が綴られる。
美術の授業で絵を描いていると逸輝の隣に、
クラスメイトの華屋律子が座る。
「彼女と私の肩に夏服のシャツを挟んで触れあっていた。」
もうこの表現がたまらんかった。
さらに追い打ちをかける。
女子にここまで接近されたことがなく戸惑う逸輝は、
“シャンプーの匂いを放つ”華屋から、
「クラスメイトたちによる真夜中の集まり」に誘われる。
わざわざ「シャンプーの匂いがした。」の一行をぶち込む。
思春期真っ只中の男子は、イチコロだろう。
その後、逸輝と律子の付かず離れずの関係が描かれるが、
結局、2人が付き合うことはなかった。
その際の一文。
「中学生の恋の哀しさは、記憶の中では永遠になりこそすれ、
現実では決して永遠にはなりえないということだ。」
これにはグッと来た。
逸輝の中学時代のエピソードは、たった10ページ程度。
にもかかわらず、濃密。
自分の少し恥ずかしい恋心なんかも含め、
中学時代の記憶がいろいろと蘇ってきた。
「スタープレイヤー」の紹介記事のところに記した通り、
小生と恒川光太郎は、中学生時代の同級生である。
同じ空間を共にしたからこその共鳴があるのかもしれないが、
本当にこの逸輝の中学時代の切り取り方は、秀逸だった。
恒川光太郎がファンタジー小説家のマエストロであり、
ファンもその作風を望んでいることは百も承知だが、
意外と青春小説もいけるんじゃないかな?
さて、その恒川光太郎の作風ですが、
時代小説風の前々作「金色機械」と前作「スタープレイヤー」で、
一部のファンから“いままでとまるで違う”、
“恒川光太郎に求めているものではない”という意見が出た。
確かに「夜市」、「金色の獣、彼方に向かう」、
「風祭」といったダークで幻想的な作品群とは異なる。
でも全部が“らしくない”かというと、そんなことはない。
どちらも“恒川節”が多く散見する。
個人的には、“恒川節”を残しながらも、
少しずつ違うジャンルを取り入れていき、
どんどんと作風の幅を広げていって欲しい。
既存のファンは落胆するかもしれないが、
新たなファンを得ることだって出来るかもしれない。
デフ・レパードの「SLANG」。
メタリカの「LOAD」「RELOAD」。
メガデスの「RISK」。
ジューダス・プリーストの「TURBO」。
ハロウィン「CHAMELEON」。
多くの一流メタルバンドは、あまり“らしくない”アルバムを出している。
今はどのバンドも“らしさ”を取り戻しているが、
“らしくないアルバム”の経験が、糧になっているのは間違いない。
AC/DCのようにスタイルを貫いているバンドもあるけど、
「金色機械」「スタープレイヤー」シリーズを読むと、
恒川光太郎は、AC/DCタイプじゃないような気がする。
まだ若いこれからの作家だし、10年、20年、30年後を見据えて、
ひとつの枠にとらわれず、
スタープレイヤーの如く、“アッと驚く”ような冒険をして欲しいな。
って、なんだか「金色機械」「スタープレイヤー」シリーズが、
問題作のような書き方になってしまいましたが、
決して、そんなことはございません。
2005年に「夜市」でデビューしてから、今年で丁度10年。
この間、アンソロジーを除く著者単体作は11冊。
1年に1作品のペースであり、決して多作家ではない。
「ヘブンプレイヤー」は待ちに待った新刊だったが、
3日ぐらいで読み終えてしまった。
次回作まで、また360日ぐらい待つのかなぁ…。
そして、読んでみたいなぁ〜、
恒川光太郎のノスタルジー青春小説を…。