2019年06月22日更新

「白昼夢の森の少女」(恒川光太郎)

最近、全く本を読んでいない。
マジで読んでいない。


前は電車中や就寝前の布団の中で本を読んでいた。


しかし、今は多くの人がそうであるように、
スマホの画面と睨めっこ。


でもゲームはやっていない。


主に最近、嵌っている登山関連のサイトか、
その探求心に尊敬の念を抱かずにはいられない、
“ヨッキれん”こと平沼義之さんの廃道・廃線・隧道レポ「山さ行がねが」等、
オブローダーのサイトなんかを読んでいる。


よって、活字離れは免れてはいるが、
本を読んでいないのである。


令和になってから一冊も…。
いや、2019年になってから一冊も読んでいない。


そんな中、中学時代の同級生で、
本ブログに何度も登場している作家・恒川光太郎から新作を頂戴した。


「白昼夢の森の少女」


IMG_2517tate2_R.jpg


数年前まで沖縄に住んでいた恒川くんが、
東京都へ引っ越してきてから会う機会が多くなり、
更に今年に入ってその頻度が加速している。


話す機会が増えているものの、
恒川くんは、著書のことをあまり話さない。


「白昼夢の森の少女」を貰ったのは5月末で、
この本が本屋さんに並んだのは、4月末。


その間約1ヶ月。


小生も恒川光太郎の新作情報を調べてはいなかった。


恒川「今日、新しい本を持ってきたよ」
小生「えっ!?新作出してたの!?」


そんなやり取りだったんだけど、
多分、この距離感が良いのだと思う。


小生にとっては、作家・恒川光太郎以前に、
同級生の友達、恒川くんなんだよね。


そして、毎回恒川くんの著作を読んで感じる疑問を
「白昼夢の森の少女」でも繰り返す。


この唯一無二の世界観は、どこから生まれてくるのだろうか?


恒川くんと接して、話してみても、
全くその答えを導き出せない。


さて、「白昼夢の森の少女」は10篇の作品が収録されている。


恒川くんに聞いたところ、発表済みだが、
バラバラになっていた短編をKADOKAWAが集め、
一冊の本にまとめてくれたとのこと。


【収録作品】
「古入道きたりて」
「焼け野原コンティニュー」
「白昼夢の森の少女」
「銀の船」
「海辺の別荘で」
「オレンジボール」
「傀儡(くぐつ)の路地」
「平成最後のおとしあな」
「布団窟(ふとんくつ)」
「夕闇地蔵」


「古入道きたりて」は、
幻想的でネイチャーを感じることができる恒川光太郎らしい作品で、
この話を一番最初に持ってきた理由がわかる。




「焼け野原コンティニュー」は、世紀末系の作品。


記憶のない男が記憶を取り戻すにつれ、だんだんと切なくなる。
ビデオゲームでは有り難いコンティニューが、この物語ではとても不都合であり、
男の行く末を案じずにはいられない。




本著のタイトルとなった「白昼夢の森の少女」は、
蔦と同化してしまった女性の話。


蔦は多くの人たちと同化し、一つの町をジャングル化させ、
同化した人たちは、みな蔦を通じて意識が繋がっている。


同化した人たちが、これまでの生活よりも蔦の中での生活を好み、
同化していない人と普通に会話もできるのが面白い。


そして、同化している人たちが見る共有夢である男性に出会ったことから、
物語は急展開を見せる。


よくこんな奇天烈なストーリーを考えられるなぁ…。




「銀の船」は、空を飛ぶ巨大な船に乗り込んだ少女の物語。


世知辛い世の中で暮らしていると現実逃避をしたくなることがある。
小生もそんな時があります。


もしも実際に今の生活を捨てて、新しい未知の世界に行けたとしたら、
行くか?行かないか?


今の生活は果たして、そこまで酷いか?
いや、辛いこともあるけれど、楽しいこともあるじゃないか。


改めて自分の日常生活を俯瞰して見る。
そんな気にさせてくれる作品でした。


因みに少女が乗る銀の船の名前は「ブリガドーン」。


『ブリガドーン』というジーン・ケリー主演の古いミュージカル映画がある。
100年間に1日だけ出現するスコットランドの幻想的な村に迷い込んだ男のお話で、
なんとなく「銀の船」に通ずるものがある。




「白昼夢の森の少女」と「銀の船」は、割とページ数が多い中編作品なのに対して、
続く「海辺の別荘で」と「オレンジボール」は、ショートショート。


これまで恒川光太郎のショートショートには出会ったことがなく、
「海辺の別荘で」を読んだ時は、あまりにサクッと終ったので驚いた。


「ショートショート書くんだ」って。


そういえば、いつだったか2人で散策小旅行に行った際に、
星新一の名前を出したら、「大好き」と言っていたような覚えがある。




「傀儡(くぐつ)の路地」は、妻に先立たれた男性が、
リタイア後、趣味の散歩で訪れた街で事件に巻き込まれる話。


途中まではヒッチコック張りのスリラーで、
「ほう、こんな作風のものも書くのか」と意外に思っていたら、
その後、なんとも不気味な世界が待ち受けていた…。


本著の中で一番ホラー色が強い。




「平成最後のおとしあな」は、
「傀儡(くぐつ)の路地」とはまた違った怖さを持つ作品。


あえてストーリーには触れないが、その高い構成力には唸った。
途中まで読んで、また冒頭を読み返したよ。


タイトルも秀逸。


本当に奇妙なお話で、「世にも奇妙な物語」でドラマ化して欲しい。


恒川光太郎ぽさは抑え気味で、らしさを求めるファンは好まないかもしれないけど、
小生は本著の中で一番好きですね。




「布団窟(ふとんくつ)」。


“私は東京都の武蔵野市に生まれ育った。”という一文や、
伊勢丹デパートの屋上が登場することから、
これは恒川光太郎の実体験が元になっているのでは?思いながら読み進めた。


その推測は当たりで、恒川光太郎の“実話怪談”だった。


“実話怪談”なので、物語にオチはなく、
「あれはなんだったんだろう」で終わる。


物語としては物足りないかもしれないが、
少年・恒川光太郎のこの不思議な体験こそ、
彼の作品の原点のような気がする。


作中、本人もそのようなことを綴っており、
ファンにとって興味深い作品なのではないでしょうか。


そして、小生にとって、それとは別に興味深いところがあった。


「布団窟」の少年・恒川光太郎は、伊勢丹の屋上のゲームコーナーで、
「ドラゴンバスター」というアーケードゲームをやる。


超懐かしい!!!


小生もゲーセンでプレイした。





同い年なので、この程度のシンクロはあっても不思議ではないが、
まさか恒川光太郎作品で、
「ドラゴンバスター」という文字を目にするとは思いもよらなかった。


数年前、25年ぶりに恒川くんと再会して以来、
メタルだったりプログレだったり、散策好きだったり、
昭和とかノスタルジックな物に萌えたりと、
様々な共通項を見出していたが、
ゲーセンでやっていたゲームまで一緒だったとは。


但し、小生が入り浸っていたのは、伊勢丹(現コピス)の屋上ではなく、
ロンロン(現アトレ吉祥寺)の地下にあったゲーセン。


このゲーセンは、ターミナルエコー(現キラリナ京王吉祥寺)の地下にあった
スーパー「シヅオカヤ」と地下通路で直結していた。


その地下通路脇に小さい子供が乗り込めて、
お金を入れると部分的に稼働する巨大なロボコンが置いてあり、
幼少の頃、「シヅオカヤ」へ母と一緒に買い物に行った帰りに、
「乗せて〜!」とおねだりをしたことをよく覚えている。


「ドラゴンバスター」をやったのは、中学生になってからだったと思う。


“盛り場に行ってはいけません”という学校からのお達しを丸無視して、
放課後、よく友達と繰り出した。


「ドラゴンバスター」の他に「モナコGP」、「魔界村」、
ランボーもどきの戦闘ゲーム「怒 IKARI」とかやった。





あと、勝つと女性が脱いでいく脱衣麻雀ゲームが印象に残っている。


工藤静香にクリソツな女性が登場する「アイドル麻雀シリーズ」とか、
いまでは絶対に製作不可だ。


いかん、話がそれ過ぎた。




「夕闇地蔵」は、昔(昭和初期?)のお話で、
少年、特殊能力、逢引、殺人、穴、トンネル、化け物とてんこ盛り。


横溝正史の世界に化け物をオンした感じ。


以上、10作品なのですが、
最後に筆者による「あとがき」が用意されていた。


これは単行本では珍しいのですが、
作品の誕生秘話や筆者の思いなどが書かれており、面白かった。


テーマも書かれた時期もバラバラなので、
まとまりに欠けるのは致し方なしだが、
バラエティに富んでいるともいえる。


このまま埋もれさせてしまうのは惜しい作品を、
きちんと纏めて再び日の目を見させたというのにも、
大きな意義を感じる。


実際にこのように纏めていなかったら、
小生の目には触れないまま終わっていただろう。


ロックアルバムに例えるならば、
シングルカプリング曲やサントラ収録の別テイクなどを収めた
Def Leppardの企画盤「Retro Active」。





寄せ集めアルバムだと侮るなかれ。
「Action」「Two Step's Behind」など、重要曲を収録した好盤だ。


さてさて、恒川光太郎は寡作な作家なので、
次回の作品は来年になるのかな。

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コメント (2)

ちんちくりん:

はじめまして。

布団窟を検索していたら、偶然みつけました。

私は恒川さんのお話のファンです。
恒川さんの本だけは、でたら、ハードカバーを購入しています。

同級生なんですねー。
私もいつも、まだなぜ、世にも奇妙でやらないのか不思議です。(笑)

あまり、SNSとかこういったものが疎いですが、、汗
色々な映画とかの情報が興味深いので、あとでゆっくり読んでみます。

伊藤P:

ちんちくりんさん

コメントありがとうございます。

つい先日、恒川くんと一緒に登山へ行ったばかりのうえ、
現在、彼の新作を読んでいるところだったので、
とてもタイムリーなコメントでした。

コメント頂いたこと恒川くんに伝えますね。

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プロフィール

1974年、東京都生まれ。少年時代、ジャッキー・チェンの映画に魅了され、映画小僧の道を突き進む。大学卒業後、映画宣伝代理店に入社。『リーサル・ウェポン4』、『アイズ ワイド シャット』、『マトリックス』などを担当。

2000年、スカパー!の映画情報専門チャンネル「カミングスーンTV」転職し、映画情報番組の制作を手掛けたのち、2006年、映画情報サイトの運用に従事。その後、いろいろあって、2013年7月よりCS放送「エンタメ〜テレHD」の編成に携わっている。

本ブログは、多ジャンルの情報提供を志すT-SHIRT-YA.COMのオファーを受けて、2003年4月にスタート。2007年12月にブログ化。
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