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「ゆれた」

#118


 都会で写真家として成功し、自由気ままに生きる弟(オダギリジョー)。山梨の田舎に残り、父親の面倒を見ながらガソリンスタンドで働く兄(香川照之)。


  母の法事で田舎に帰省した弟は、兄と幼馴染みの女と一緒に、吊橋のかかる渓流へと遊びに行く。

  その吊橋から女が転落。橋の上には兄の姿があった。



  殺人か?事故か?



  やがて裁判が始まり、弟は兄のために奔走するが、兄は次第に今まで曝け出したことのない一面を見せ始める。。。




  兄弟の複雑な感情をサスペンスフルに描いた「ゆれる」

  タイトルが示すのは兄弟の“感情のゆれ”なのですが、この映画見ているこっちも相当“ゆれる”。


  何に“ゆれる”のか。


  兄弟間に発生する感情の変化が、優れた脚本によって心に響き“ゆれる”。証言が二転三転し、見る側も事故なのか、殺人なのか戸惑う「羅生門」的な展開に“ゆれる”。



  そして、何よりも伊藤Pが“ゆれた”のが、この映画を32歳の女性がオリジナルの脚本で撮っているという事実。

  32歳。伊藤Pと同い年(学年は1つ違うけど)である。なのに、何でこんなに人間描写に長けているの?何でこんなに異性の兄弟間に生まれる感情を理解しているの?



  演出力も凄い。セックス・スタート!の次のカットにノズル挿入@ガソリンスタンドを持ってきたり、面会所でのアクリル板に、兄弟の顔を上手く反射させたりと小技を効かせる。音の使い方も効果的だと思う。静寂が支配する雰囲気の中、かなりの緊迫感でグイグイ引っ張って行く。

  そして、役者の演技の引き出し方。本作の宣伝文句で「見たことのないオダギリ ジョーがここにいます」ってのがあるのですが、まさにその通りでした。最近、オダジョーが出演している作品を見る機会が多かったので、尚更そう感じましたね。

  対する香川照之は、いつもはオーバーアクト気味なのですが、今回は抑え目。抑えてる感が役柄とマッチしていてとても良かった。そして、何よりも橋の上での香川照之。超キモです。←つまり上手いということだ。


  映像・役者の作り出す統一したトーンが映画全体を支配している。凄いよね。


  そんなこんなで、どれもこれも驚かされる、恐るべき32歳の女性監督西川美和。映画を見て、これほど話を聞いてみたいと思った監督はいない。その脳味噌の構造を知りたいと思った。



  で、取材させて頂いたのですが、映画同様驚かされるのが、その容姿。


  若い、可愛い、ちっちゃい。



  とてもこんな凄い映画を撮る監督には見えない。庶民的だ。返ってそのギャップが良かったりするのですが、聴くに、小さい頃から人の裏側を見る癖があるそうな。

  やっぱり人間観察力って、人の感情を理解する面もあるから大切だよなぁーって。


  伊藤Pが“凄い、凄い”を連発すると、「そんなに凄いことをしているつもりはないんですけどぉ。。。」と謙虚に対応。天才肌なんだろうなーって。


  そして、ベストセラーやらコミックやらの映画化が多い中、オリジナル脚本にこだわり続けて欲しい旨を伝えると、“そのつもり”とのことで、良かった良かった。

  “但し、次の作品はオリンピックぐらい間が空きますけど”(※1)と笑顔で付け加える。


  寡作でいいさ。


  4年後が楽しみだなー。



【※1】 西川監督のデビュー作は2003年の「蛇イチゴ」
短篇集「female フィーメイル」('05)を経て、本作が長編2作目


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