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「スーパーマン リターンズ」をより楽しく見る方法

#121


  今回はオタクな話を。

  別に知らなくても良いけど、「スーパーマン リターンズ」をより楽しく見る方法!


  「スーパーマン リターンズ」は勧善懲悪、誰でもわかる単純明快なストーリーで、ボケッ〜と見ていても充分楽しめる作品なのですが、ちょっと視点を変えると色々と興味深い事柄が出てきます。




1.アメリカにおけるアメコミの存在価値

 アメコミは日本において一部の熱狂的なファン以外、あまり一般的な人気があるとは言えません。「バットマン」、「スパイダーマン」など映画は見ているけど、原作となるコミックまで読んでいるという人にはなかなか出会えません。映画にしても、アメコミの映画化というだけで、引き気味の人も沢山います。

  そんなアメコミですが、母国ではどうなのかと言いますと、絶大なる人気を得ています。

  では、何故こんなに人気があるのかというと、これはアメリカの歴史と関係があります。アメリカは1776年に独立宣言をしてから、たったの230年しか歴史がない国です。

  歴史が浅いため、ギリシア神話や日本のヤマトタケルのような英雄伝説がなく、アメコミのヒーローたちがその役割を担っていると言われているのです。

  特にスーパーマンは1938年に初登場して以来、70年間、あらゆる世代から支持を得て、永遠のヒーローとして君臨し続けています。




2.「スーパーマン リターンズ」空白の5年間。

  「リターンズ」は本コラム#119でも触れましたが、クリストファー・リーブ版の「スーパマン1&2」の続編で、スーパーマンは已む無き事情で5年間地球を離れていたという設定になっています。


  なんで、5年間離れていなくてはならないのか?

  今年は2006年ですが、5年前って何がありましたか?

  そう、9.11米同時多発テロがありました。


  スーパーマンは超人です。飛行機がビルに突っ込むのを阻止できないはずがありません。大人は未だしも、小さい子供たちは空想と現実の境界線が曖昧です。「なぜ、スーパーマンはテロを阻止できなかったの?」という疑問を持ち得るのです。

  よって、「リターンズ」で5年間地球を離れさせる事によって、テロを阻止出来なかったという“説明付け”が必要だったんですね。




3.アメコミ・ヒーローの分類

  アメコミの有名どころ(DCコミック、マーヴェル)はある程度パターン分けが可能です。

■■■■a.元々は人間だったのになんらかの形で、変なパワーを身に付けてしまったケース
■■■■ (ハルク、ファンタスティック・フォー、スパイダーマン)

■■■■b.中身は人間。復讐などのため、戦いに挑むケース
■■■■(バットマン)

■■■■c.そもそも生まれた時からそのパワーを持っていると理解しているケース
■■■■(スーパーマン、X−MEN)




4.アメコミ・ヒーローの葛藤

  特殊能力を持った状態で、人類と共存するアメコミのヒーローたちには様々な葛藤があります。

  特にaに分類されるヒーローたちは、元々人間だったわけですから、当然、自分の変化に戸惑いますし、周囲の人たちにも多くの影響を与えてしまいます。

  バットマンは自分のやっている悪党成敗が犯罪者と変らないのでは?と悩みます。

  cに属するX-MENは、ほとんど自分がミュータントであることを受け入れて生きていますが、映画(「1&2」)では、自分たちの存在意義、人間との共存への戸惑い、同じミュータント同士が戦うことに対しての葛藤が描かれています。ローグ(アンナ・パキン)のように人間になりたいと悩むキャラも登場します。

  我々観客は、アメコミのヒーローが葛藤に打ち勝って戦う姿にカタルシス(悲劇のなかの快感)を感じます。これがアメコミ映画の醍醐味の1つだと、伊藤Pは思っています。(これのもっとも良い成功例は「スパイダーマン2」だ⇒#46参照)


  そして、スーパーマンですが、「リターンズ」にも葛藤が描かれています。しかし、それはヒーローとして戦うというよりは、もう少しパーソナル(恋愛とか)な問題が多い。(しかもやることやってるし。。。)




5.ブライアン・シンガー監督

  先ほどの分類ですが、cに関してはさらに分類が可能です。

  アメコミ・ヒーローにはベースの部分で、“特殊能力を持ったマイノリティな存在”というのがあります。このマイノリティーの意味合いがX-MENとスーパーマンでは大きく異なります。

  X−MENたちと人間の関係性は微妙です。しかし、スーパーマンは人間から好意を持って受け入れられています。



  「X-MEN1&2」監督したのは、ブライアン・シンガー。ブライアンはゲイであることをカミングアウトしています。ゲイは昔ほど蔑視されていませんが、今でも、マイノリティな部分があると思います。

  つまり「X-MEN1&2」は、ブライアンのその部分が強く映画に反映され、先の述べた葛藤が描かれているのだと思います。


  ゲイであるブライアン・シンガーは自身がX−MEN同様、類は違えどマイノリティだからこそ、自己投影が可能だったのではないでしょうか?

  そして、ブライアンは「X-MEN3」を蹴って、「スーパーマン リターンズ」を撮りました。

  人間から受け入れられ、ヒーローとして戦うことにさほど葛藤しないスーパーマン。果たして、ブライアン・シンガーは「スーパーマン リターンズ」で一体何を描こうとしているのか?





  ということで、大分マニアックになりましたが、ボケーッと見るのも良いですが、上記の要素を踏まえた上で、「スーパーマン リターンズ」をより突っ込んで見てみるのも楽しいかと。




■■■■PS:伊藤Pはアメコミにさほど詳しくありませんので、アメコミファンからみたら、「ヘコイ文章」
■■■■と思われるかもしれません。ご了承ください。また、本文作成に際しまして、以前、本コラム
■■■■にも度々ご登場いただいているLA在住、光武蔵人監督(#117裏#012参照))に多大
■■■■なるご協力を頂いております。



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